恋愛も結婚も必要ないと独身を貫き通す四十男の文字通り、「結婚できない男」ぶりがせつなくもキュートな、大人のための癒し系コメディ。建築家・桑野信介(阿部寛)はその偏屈な性格が災いしてか、いまだ独身。仕事へのこだわりのあまりに商談が不成立になることも珍しくないが、キッチンを中心とした温かみあふれる家作りには定評がある。ある夜、隣の部屋から発せられる騒音に対抗するべく、ステレオでクラシック音楽をボリューム全開に流して得意げになっていた桑野は、突如腹痛に襲われる。救急車を呼んだ行きがかり上、その隣人であるOLの田村みちる(国仲涼子)は病院まで桑野に付き添うことに。桑野は肛門の検査をしようとする当直医の早坂夏美(夏川結衣)に対して、断固診察を拒否する。
首尾一貫して主義主張を曲げないスタンスから、結婚しそうな雰囲気をまったく醸し出さない主人公・桑野を演じる阿部寛の性格演技はケッサク中のケッサク。一人焼肉屋、一人ビアガーデン、一人金魚すくい、一人手巻き寿司と連打される一人ぼっちぶりに加えて、折々繰り出されるウンチクの数々も気難しさの極点。キッチンの掃除法やお好み焼きの焼き方にいたってはもはや様式美さえも漂わせて、その独善ぶりは回を追うごとにさらなる筋金入りとなっていく。
もはやそこにいるだけでもおかし味をにじませる桑野と、桑野に劣らず「結婚できない女」ぶりを発揮する夏美との掛け合いは患者と内科医の関係性を越えて、ついには人生相談の域に。そんな丁々発止ぶりをはじめとした、あるあるとうなずきたくなるような粒立ちのいいエピソードの数々にはクスッと出来ること請け合いだ。悲しいやら、愛おしいやら、おかしいやらのない交ぜに登場人物たちのアンサンブルも絶妙な、2006年を代表するドラマである。(麻生結一)